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立体を構成するための平面、立ち昇るような面、踏み固められた地面、ずっと、面の存在感みたいなものに惹かれてはいても、どうやってそれを表せばいいのかわからず、それでもつくりたいと思って、おもむろに木を彫りだしたのが、わたしの木工のはじまりでした。
そのころから、粘土を木に埋め込んでみたりして、素材を感じながら、表面を面としてどう存在感を持たせるのかみたいなことをずっと考えながら制作してきました。
今回、個展のための制作にあたり、漆、胡粉の他に、何かで表面にテクスチャをつくれないかと思い、日本画などで使われる土顔料を見つけました。
色をつけるというより、面を際立たせたいというのが目的で、木の凹んだところに土顔料を埋め込み、スプーンの裏で擦り付けると、土顔料と木に艶が出てきて、異素材でつくられた面が一体化してきます。
そして、器の口縁を薄く削ぎ落とすと、木の塊だったものが、殻のようなものに見えてきます。
「空殻(しいな)」という題名は、もともとは「秕」という漢字から、島崎藤村の「破戒」という小説に当て字として書かれた言葉を引用しています。
秕とは、実のならない籾(もみ)という意味。
今あるものを持って、そこに欠いたものを想像できないかみたいなことを思ってつけました。
そのあたりを、共鳴できたらとても嬉しいです。