最近、毎日作ってると、昨年の暮れまで働いていた扇子店でのことを思い出します。
20年前の春、とても身勝手な理由で東京から京都に行くことにしたわたしは、両親から就職は必須条件ということで、短大で陶芸の勉強をしていたことから、その方面で働き口を探していたのですが、なかなか見つからず、結局、職業安定所でなにか芸術と関係あるものを…と必死に探し、老舗の扇子店での扇子の検品の仕事に就くことになりました。
最初は美大出身なのに芸術とあまり関係のないような仕事に就いたことを、とてもはずかしいというか、この仕事についてるということを少し隠したいような気持ちでいました。
でも京都にいるためにはと毎日毎日この扇子の検品の仕事を必死にやって、しがみついているうちに、この仕事がとても私に向いていることに気付き、だんだん自信が付いてきました。
千本ほどの扇子をどれだけ早く正確に、キズなどを見逃さずに検品できるか、どうしたらこのキズを早く直せるか、どれだけ早くナイロン袋に扇子を入れられるか、どれだけ早く箱を開けて扇子を入れるか。そのことだけを思いながら仕事をしているのは、今思うと「飛ぶように仕事をするには」みたいなことをずっと考えていたような気がします。
筆で色直しをするので、いつのまにか前より筆さばきや字がうまくなっていたり、何かをするにつけ早く行えるようにするにはと考えるクセがついたのはまさしくこの検品の仕事に就いた恩恵だと思います。
扇子店で働きながら木のことをしはじめて、生業を木工にすると決めたので昨年暮れに扇子店をやめましたが、今、木の仕事をしていると、扇子の検品のように「飛ぶように仕事をするには」と考えます。飛ぶように作りつつも正確に。でも技術がまだまだなので木工は全然そこまでに達していません。
でも、芸術だ何だとか若い時に思っていたよりも、なにせ毎日の積み重ねが大事だなと思えるようになったことは、これからの作品つくりにとても大切な気がするのです。